「ミカさんはどうやって恋愛依存症を克服したのですか?」という質問を、クライアントさんたちから聞かれることが時々あります。
カウンセリング中にカウンセラーのことを話すのはあまりよくないので、克服についてはできるだけサラッと伝えるようにしているんですよ。
カウンセラーになったばかりの頃は、聞かれるとホイホイ答えてしまったのですが、それではクライアントのためにならないことが今の私にはわかります。
クライアントが私に聞いてみたいと思った瞬間、クライアントが何を感じているのかが大事なんです。
“今ここ”で、つまり私と話しているこの瞬間に「何がクライアントに起きているか」に、クライアントの変化や克服の片鱗が出るので、そこにフォーカスしたいと思うのです。
とはいうものの、恋愛依存症だけでなく対人関係における悩み、また空虚感や孤独感など人の感じ方全般において、変化のプロセス(道のり)は多くの人に共通することなので、今回は「カウンセリングによる変化」について書いてみたいなと思いました。
ちなみに、カウンセリング中にカウンセラー自身の話をするのは下記の理由でよくないのです。
カウンセラーが自分の話を極力避ける理由
①焦点がズレる
単純に言えば、カウンセラーの話をしているとクライアントの話の焦点がズレてしまうので良くない。
②クライアントが心の中に入っていくのを妨げる
カウンセリングは、クライアント自身がゆっくりと心の中を探っていくことが大事。その結果として気づきが起こるので、カウンセラーの話をしてしまうと気づきが深まらないのです。
③カウンセラーとクライアントは別の人間
カウンセラーの経験はあくまでもカウンセラーの生育歴や人生観から来ている。クライアント独自の生育歴や人生観、価値観はまったく別のものであるため、カウンセラーの経験談はあまり参考にならない。
つまり、クライアントにしかわからない答えがクライアントの中に必ずあるため、カウンセラーの経験を長々と話してしまってはダメ、ということなんですよ。
でも、あなたがカウンセリング中に聞いてみたいと思ったら、ためらわないで聞いてくださいね。その時のあなたの表情やちょっとした仕草を見ながら私は対話していきます。
カウンセリングこぼれ話
かなり前のことですが、私がカウンセリングを受けている最中に、カウンセラー先生がご自身の経験を語り始めたのには閉口しました。しかも何度かあったのですよ。私から聞いていないのに、です。あのときのカウンセラー先生に何が起きていたのか質問してみたい。
想像するに、悩んでいた私を安心させたくて語ったのでしょうが、やはりそれは余計なお世話かな。主役はどこまでいってもクライアントですものね。
カウンセラー先生の気になる部分はありましたが、素晴らしい面もたくさんお持ちでした。したがって、その先生の特定の場面や癖が気になったという話です。
さあそれでは、カウンセリングによる変化についてお話しましょう。
カウンセリングによる変化のプロセス
一言でいえば、今まで「集中的に見えていたもの」「気になって仕方がなかったこと」がひっくり返ったから、私自身が変化したのです。
ちなみに心理用語では変化のことを「変容」といいますが、わかりやすく変化として話を続けましょう。
意識が集中していたこと
今まで集中的に見えていて、気になって仕方がなかったことは、「私の心の深い部分にある悲しみはどうしたら消えるのか」でした。
恋愛依存症にもダイレクトに関係していたその感覚は、「悲哀」と表現するのがピッタリで、楽しい時間を過ごしても、しばらくすると悲しくて仕方がなく、寂しさを埋めたい感じや空虚感と孤独感で心の中がひたひたといっぱいになり、閉口するほど。
ふとしたことがきっかけで思い出し、悲しみモードに突入しました。
・20代で両親を失った……悲しい。
・アルコール依存症の父のせいで、自分の中に明るさや天真爛漫さがない……悲しい。
・機能不全家族で育ったため、人に甘えられない、甘え方がわからない……悲しい。
・仲の良い家族連れを目にするたびに負けてしまったような、自分には手に入らないような脱力感……悲しい。
もう、数えはじめるとキリがないくらい悲しくてたまらなかったのです。
カウンセリング開始当初
その悲しみをなくしたくて、2010年頃からずっとカウンセリングを受けてきました。
*カウンセリングのきっかけは夫婦のこと、例えば「夫に変わってほしい」「夫のDV」などでしたが、カウンセリングを継続していると、テーマは自分自身の問題なのだとわかってきたのです。問題は、元夫と心理的な線を引けなかった共依存。そして私の心の底には、ブラックホールのような深い悲しみがありました。当時を思い出して書いていると少し苦しいです。
カウンセリング開始~6年経過
2017年からは、私自身もカウンセラーとなったため、「まだ完全になくならない悲しみをどうにかしないと」とか、「これではカウンセラーとしてやっていけない」と焦り、個人カウンセリングを受けたりグループのカウンセリング(ワーク)に定期的に参加したりした結果、悲しむ時間は短かくなりました。
悲しみで落ち込むのは1か月~3か月に1度、しかも悲しみは数時間で終了といった具合に。
*充実感のある生活をしていましたから、カウンセラーでなければそこまで追求しなかったでしょう。でも、私は心を扱う専門家。深い悲しみを持ったままでは、同じような悲しみを抱えているクライアントを目の前にして、きっと私自身の悲しみの方に入ってしまう。だから、カウンセラーが心の中を整えておくことが必須なのです。
カウンセリング開始から何年も経ちました。でも、心の深~い部分にある悲しみは、どうしても何をやっても完全には消えなかった。そして、それが気になってたまらなかった。
物事の明るい面をみれば良いのはわかっていました。ポジティブでいることも大事なことも当然承知していました。
でも、なくそうと思えば思うほど、なくならない。
カウンセリング開始~11年経過
そしてある日、オンラインでカウンセリングを受けている最中に、ふっと気がついたのです。
私のような境遇であれば、悲しいのは当たり前なんじゃないか……、と。
でも、悲しみを持っている自分がなぜか許せなくて、完全に悲しみをなくしたくて、必死になっていた自分がいたのだと、初めて気がつきました。カウンセリングに影響があるからというよりも、おそらく自分が納得いかなかったのでしょうね。
カウンセリングの間、私の気持ちに寄り添って一生懸命に提案をしていたカウンセラーの姿をぼんやりと見ていて思ったんです。
仕事とはいえ、私のためにカウンセラーがこんなに一生懸命になっている。しかも、この人は何人もの人とかかってきた優秀な先生なんだ。でも、私の悲しみはなくならない……。
なくならない…
なくならない…
なくならない…
あっ、そうか……。
わかった!
悲しみはなくならないんだ!!
だったら、その悲しみを避けないで、これからは自分なりに悲しみと共に生きていこう、と意識が180度変化したのです。それから私の悲しみは、不思議と消えていきました。
ゲシュタルト療法に「変容の逆説的理論」があるのですが、本当にその通りのことが私に起こりました。
変容の逆説的な理論とは
変容の逆説的な理論 A・バイザー
人は自分でないものになろうとする時ではなく、ありのままの自分を体験する時に起こる。
変容は自分、あるいは他者がその人を変えようとする強制的な試みによって起こるのではなく、ありのままの自分でいることに時間と努力を費やす時、自分自身の現在のありように完全にひたる時に、変容は起きる。
難しく聞こえるかもしれませんが、自分自身でいることき、ありのままの自分を受け入れたときに変化が起こるという、現在の私の生き方にも通じる理論です。
カウンセリングで変化したのちに、自分の中から出てきた言葉
私はもう、自分でない人にはならない。
歓迎はしないけれど、悲しみはあってもいい。
私と同じ生育歴や経験ではないけれど、私のような人間と接して変われる人の役に立てるといいな。
そして、どこからかこんな声も聞こえてきました。
「ミカ、あなたはよくやってきたじゃない!」
まとめ
カウンセリングによる変化は、それまで見えていたこと、そこしか見えなかったものから、意識が他の部分へ移ったときに起こります。
そして、変化はあなた自身のタイミングで良いし、あなた自身が決めることができるのです。